
今、私たちが先人から受け継いだ日本の伝統的な建築技術を手放してしまったら、百年後、二百年後、この日本から、風土に融け込んだ美しい風景が、季節のめぐりの中にある暮らしが、日本人らしい感性が、失われてしまいます。技術も風景も文化も、そして感性も、いちど失ったら、取り戻すことはできません。日本という国が、歴史や文化、職人技術を尊重し、それを活かすまっとうな国であってほしいと願います。
そのために私たちつくり手は、現状では法律的に不利な立場に置かれていながらも、日本の木の家をつくり続けます。つくることのできる人育てをします。住まい手に伝統構法のよさをアピールしていきます。伝統構法を未来につなげるための法整備を求めます。
このままの状態が続けば、伝統構法の灯は、それを望む人がいるにも関わらず、消えてしまいます。そうしないために、国ではこの三年で伝統構法の法整備を進めようとしていますが、それが伝統構法の家づくりをそれぞれの地域で、実現できる方向に進むのでなければ、伝統構法を未来につなげることにはなりません。つくり手の声に耳を傾け、現場に即した、計算や手続きが煩雑になりすぎない、誰にでも使える法律をつくってください。私たちも現場から、声を届けます。
伝統構法を未来につなげる、
今はとても大切な時
木の一本一本の性質を見抜き、適材適所に組み上げていく職人技術による家づくり。それが「伝統構法」です。これを「過去の文化遺産」にとどめるのでなく、未来に向けて積極的につなげていくべき時が来ています。今、つなげなければ、もうつながらなくなる「大事な時」に私たちがいることを、まず認識しましょう。
そして、量より質を大事にし、環境との共生をめざし、日本のすぐれた建築文化や暮らしの知恵を活かした未来をつくろうとするならば、伝統構法の家づくりを広げましょう。なぜならば、伝統構法の家づくりとは、単に「住む箱」をつくるだけでなく、日本のものづくりの原点である職人と住まい手との豊かな関係性を築くものであり、日本の気候風土に添った暮らしの場となり、環境にも負荷をかけず、地域材利用で山を守り、後世に残す価値のある美しい景観をつくるなど、いくつもの「よさ」をあわせもっているからです。
ほかならぬ日本の法律が、
日本の木の家づくりを縛っている
なぜ、このようなことをわざわざ宣言しなけれならないのか。それは、この「日本の木の家づくり」が、ほかならぬ「日本の法律」である建築基準法によって、しにくくなっているという皮肉な現状があるからです。その背景には「地震国である」という、これもまた日本特有の悩ましい事情があります。
建築基準法は「力に対して剛性で対抗する」という西洋の建築学に依拠しています。西洋の建築学からみると「伝統構法の家は地震に弱い」という評価をされてしまいますが、それはひとつの見方に過ぎません。実際に木を扱う大工棟梁たちは経験的に「伝統構法の家は地震力に対抗するのでなく、柔らかく受け流すしくみをもっている」と確信していますし、実際に大きな地震にも耐えてもっている伝統構法の家はたくさんあります。西洋の建築学では、こうした経験知や事実の説明がまだついていないのです。ところが、地震があるたびに建築基準法は「より剛いつくり」を奨励する方向で改正され続け、未解明の伝統構法は検証されることのないままに、法的に不利な立場に追い込まれ続け、今日に至っています。
長い間平行線をたどり続けてきたこの問題が棚上げされたまま、耐震偽装問題の余波として二〇〇七年の「基準法の厳格化」という事態を迎え、法律に位置づけのない伝統構法は窮地に立たされることとなります。中でも「石場立て」という、建物と基礎とを緊結せず、基礎の上に柱を直接立てるもっとも「伝統構法らしい」家は、「建てられない」に等しい厳しい状況にあるほか、基準法を守るために伝統構法らしい部分を発揮しきれないケースも顕在化してきています。日本が誇る歴史的建造物ですら、建築基準法からみれば「既存不適格」という不名誉な、存続しにくい立場に放置されたままです。
伝統構法の見直しは
「未来につなげよう」という視点で行ってほしい
環境的、文化的ニーズの高まりと、安全性最重視の建築基準法という二つの逆のベクトルのせめぎあいの中、基準法の厳格化を機に「伝統構法の工学的検証を」というニーズが高まり、長期優良住宅 ( 二〇〇年住宅 ) という政府の流れのひとつとして、実験や委員会が実際に稼働しはじめました。われわれ現場のつくり手もそのメンバーに入っています。
こうした流れがどこへ向かうのか、ということに対して、現場から一言、言いたい。工学的な安全性はもちろん大事ですが、その国の歴史文化を未来に継承することが、ほかならぬその国の法律に阻まれることが、あってはなりません。「伝統構法を未来につなげよう」という視点からの検証をしていただきたい。
現・立命館大学グローバルイノベーション研究機構の鈴木祥之先生はそうした視点から限界耐力計算による伝統構法の設計法を編み出され、二〇〇〇年に発効された「性能規定」以来、合法的に伝統構法を建築するために現場のつくり手にも活用されてきていました。具体的には、ようやく拓きかけたこの道を、より使えるものにしていく方向であってほしいと思います。
平成二十年七月十二日
これからの木造住宅を考える連絡会(これ木連)
財団法人住宅産業研修財団 優良工務店の会
職人がつくる木の家ネット
特定非営利活動法人 伝統木構造の会
有限責任中間法人 日本曳家協会
特定非営利活動法人 日本民家再生リサイクル協会
特定非営利活動法人 緑の列島ネットワーク
『このままでは伝統構法の家がつくれない!』賛同団体
素木(すき)の会、協同組合 東京の木で家を造る会、社団法人 埼玉建築士会、木の情報発信基 木の博物館 木力館、NPO埼玉・住まいの会、特定非営利活動法人 杢の家をつくる会、協同組合 伝統技法研究会、特定非営利活動法人 緑の家学校、NPO木の建築フォラム、全国建設労働組合総連合、NPO法人日本伝統建築技術保存会、エコスの会、中央工学校、気仙大工建築研究事業協同組合、中部自然住宅推進ネットワーク、社団法人東京中小建築業協会、熊野材住宅促進委員会、川尻六工匠、NPO法人 メダカのがっこう、真壁の家づくりネットワーク、社団法人全国中小建築工事業団体連合会、社団法人 全日本建築士会、木考塾(木造在来工法住宅を考える会)、人と木の住まいづくりネットワーク、大津の森の木で家を建てよう!プロジェクト、日本建築専門学校、杜の家づくりネットワーク、社団法人日本建築家協会(JIA)東北支部宮城地域会、阿部和建築文化研究所、みちのく伝統建築研究会、ワークショップ「き」組、社団法人日本建築大工技能士会連合会